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Mirage Auto Design

退屈ながら貴重な時間でもある高速バスの車内で、断続的にしか読めないでいた村上 龍さんの小説をやっつけるつもりだったのだけど、長らく放置していたブログをやっと更新する気になった。

本当は村上 龍さんの小説を読み始めてはみたのだけど、なんだか途中から文体が気になってきて止めてしまったのだった。
つい先日、お亡くなりになられたのに非常に申し訳ない。
で、その後に自分が書いたこのブログの文体まで気になってしまい、試しにChappyとGeminiに「五木寛之の小説風味にしてみて」っとお願いしたら、両方ともとんでもなく堅苦しい感じになってしまったので、「池井戸 潤 風味で!」にしてもらった。
(今回はChappyの方を採用/たまに登場していきなり長文と言うパターンは相変わらずで申し訳なし)

第1話 始まりは、あのホイールだった。(池井戸 潤 風味 by Chappy)

リフトに載った、白い981 Boxster。

作業場の照明を映すボディを少し離れて眺めながら、ようやくここまで来た、と思った。まだ何かを作り上げたわけではない。車を据え、これから始めるための準備をしただけだ。それでも、何年も頭の片隅に置いてきた計画が、ようやく目の前の仕事になった。

事の始まりは、もう数年前にさかのぼる。

あるアルミホイールのデザインに惚れ込んだ。

「このホイールを981 Boxsterに履かせたい。そのための、オリジナルのワイドボディキットを作りたい」

発想は、実に単純だった。

気に入ったホイールがある。それを履いた姿を想像する。その姿にふさわしいボディを、自分の手で作ってみたくなる。頭の中では、少しずつクルマの輪郭ができ始めていた。

しかし、構想が膨らむことと、実際に手を動かせることは別だった。

次々と舞い込んでくる、重たい仕事。ひとつ終われば、またひとつ。目の前の仕事に向き合うたび、自分の計画は後ろへ回った。

これが片づいたら。
次の仕事が落ち着いたら。

そうしているうちに、数年が過ぎた。

不思議なことに、あのホイールを履かせたいという気持ちは薄れなかった。忙しさの隙間にふと思い出しては、頭の中のボクスターを、前から、横から、後ろから眺めていた。

そして、ようやく。
「One&Only Wide Body Kit」の製作を、本格的に始めることになった。

ただ、その前に決めなければならないことがあった。

どうやって、形を作るか。

いちばん経験があるのは、発泡ウレタンだ。膨らませて、豪快に削る。大きな塊から狙った形を削り出していく感覚は、よく知っている。手順も、その先に待っている作業も想像がつく。

だからこそ、気になることがあった。

あの削り粉である。

床に、工具に、作業場のあちこちに広がる粉。形を作っているつもりが、いつの間にか粉との格闘になっている。

「いや……今回は、あれを避けたい」

経験の多さでは最有力だった案が、まずそこで立ち止まった。

では、デジタルで進めるか。

多少はかじったことのある3D CADを、本格的に勉強し直す。AIも駆使して、効率を上げる。これを機会に、新しい作り方を自分のものにするのも悪くない。

考えている間は、なかなか良い案に思えた。

ただ、どこか引っかかった。

自分が欲しい、あの有機的な形まで、今の自分が画面の中で辿り着けるだろうか。操作を覚え、形を整えることに気を取られているうちに、最初に欲しかった表情を見失わないだろうか。

そして、それ以前に、もっと具体的な問題がある。

画面の中にできた形を、どうやって実物にするのだ。

NCマシンがあるわけではない。手持ちの3Dプリンターで扱うには、今回の造形はあまりにも大きい。データができたところで、その先の段取りがつながらなかった。

「これならいける」と思っては、引っ込める。
別の方法を思いついては、また考え直す。

まだ何も削っていないのに、頭の中ではいくつもの製作方法が組み立てられ、解体されていった。

そうして最後に残ったのが、インダストリアルクレイだった。

昔から、いちばん好きだった材料だ。

デザインの入り口には、Adobeのソフトを使う。PC上で方向を探り、「きっかけ」だけを作る。その先は、実車を前にクレイを盛り、自分の手で形を見つけていくことにした。

自分の場合、最初からすべての線が決まっているわけではない。

粗く盛る。削る。少し離れて眺める。
気になったところを、もう一度削る。

そうしているうちに、さっきまで見えていなかった形が見えてくる。

ここは、もう少し張り出したほうがいい。
この面は、後ろへ流したい。
このつながりは、まだ気持ちが悪い。

手を動かすことで、ようやく自分の欲しいものがはっきりしてくる。考えてから作るだけでなく、作っている間にも考えている。そのやり方が、自分にはいちばん合っているのだろう。

もっとも、クレイを選んだ理由を、造形へのこだわりだけで語るのも正直ではない。

自分には、少々厄介な性分がある。

「作業よりも、掃除している時間のほうが長い」

散らかってくると、どうにも気になる。形の続きを考えていたはずが、気づけば掃除を始めている。発泡ウレタンの粉を想像して二の足を踏んだのも、結局は、そういう自分をよく知っているからだ。

せっかく確保した製作時間である。
今回は、できるだけ形を作っていたい。

こうして方法が決まり、車のセットアップも済んだ。

長いこと温めてきた構想を、ようやく自分の手で確かめられる。ここからは、盛って、削って、形にしていく。

そう思った矢先だった。

のっけから、大きくつまずいた。

クレイをどう扱うかでもなければ、CADをどう覚えるかでもない。もっと手前にある、この計画の根っこに関わる問題だった。

「あのホイールを履かせるために、ワイドボディを作る」

そのつもりで、何年も考えてきた。

ところが、ようやく動き始めた現場で最初に迫られたのは――。

そのホイールの採用を、断念するという決断だった。

次回に続く。